舞台裏掌編4〜開幕前2:ラブミー部員出動!〜



『キョーコ...。愛してる...。愛してる...。君だけだ......!』


わなわなわな


『分かるか? キョーコ......。私と君は今、繋がっている。こんなにも奥深く、これ以上は無い程に』


ブルブルブル


『君は、私のモノだ。誰にも渡さない、離さない! どんなことからでも君を守る、だからずって私の側に居てくれ、永久(とこしえ)に......!』


グシャッ


「もーーっっ。なんなの、これはーーっっ」


誰もいないラブミー部室。台本を握り潰し、般若と化した黒髪美人の怒声が響き渡る。

時は遡ることこのドラマのクランクイン前。ここ数日間のキョーコの輪をかけたキョドり(挙動不審)振りに、本人を問い詰めたは、その大親友(本人には決して言わないが)ラブミー部員2号、またの名を琴南奏江。
しかし、当の本人は蒼白な顔のまま大丈夫だと口にするだけでこそこそとゴキブリの如くフェードアウト。あんた、役者のくせに嘘吐くのは相変わらず下手よね、と訝しんだ奏江が独自にこっそりと事情聴取に徹して早数日。

遂に見付けた、諸悪の根源。いや、キョーコの笑顔を奪うもの!
なんなのよ、この明らかに際どいシーンばっかりあるドラマの台本は!
未緒役以来、苛め役のオファーばかり来ていたあの子には間違いなく別ジャンルの、確かにステップアップに繋がりそうな監督と放映陣ではあるけれど......。
何故(なにゆえ)にあの子が兄王子に囚われ、もとい、囲われて、彼の欲望のまま好き勝手に翻弄される幼気なお姫様の役なのよ! しかも、このエロ王子、いや、兄王か、結局のところ、自分の行為を正当化するために反逆起こしたようなものじゃない! 腐敗した国の立て直しという大義名分さえあれば、結果オーライ。終わり良ければ全てよし!ってヤツね......。

......台本を読み進んでる間に、いつのまにか奏江の中ではお姫様名が見事キョーコ自身に脳内変換されていたため、感情移入にも拍車がかかる。

しかし、これは仕事なのだ。役柄が苦手だ、気に入らない、などと尻込みしてたらステップアップなど出来るわけが無い。こんな濃厚な恋愛もの(恋愛で当ってるわよね、多少際どいシーンはあるけども)あの子が狼狽するする気持ちも分かるけれど、それを乗り越えてこそ女優としての格も上がると言うもの......。

溜め息ともにそういう結論に達した奏江は、その時は事の経過を見守ることにしたのだが…。

「おはようございま〜す! あれ? 琴南さん、その台本......」

元気よく部室に入って来たは、ラブミー部員3号、雨宮千織。
奏江がぐしゃぐしゃに潰し持っている台本を指差した。

「え? ああ、これは......」

こっそりキョーコから拝借したものだとは流石に言えない。

「琴南さんにも話が来たんですか? そのドラマの?」

「ええっと、実はねって......『も』?」

「ええ、ほんのちょい役ですけどね。豪華キャストでそれだけで勉強にもなるから、どうかって。なんか知らないけど、社長さんが乗り気でね〜」

『豪華キャスト』? 『社長』?

千織ののほほんとした答えに気になる単語を拾い、ぴくっと奏江が反応した。

「うちの......社長、が絡んでるの? このドラマに? しかも豪華キャストって......」

「え? 聞いてないんですか? ヒロイン役はご存知の通り最上さんで、その相手の兄王役は敦賀蓮で本決まりですって! しかも!客演でちょびっとクー・ヒズリまで出るそうですよ?」

私の役じゃあ、海外ロケまでご一緒は出来ないんで、実物と会える可能性は無いんですけどね〜、と千織が締めくくるが、最早そんな些細な事柄、奏江が聞いてるわけが無い。

今さっきまでの彼女の脳内には、『キョーコ』『このドラマ』というピースがあるだけだった。
この二つだけならば、奏江が特に心配する必要など無い。彼女の無意識化に搭載されている『キョーコ限定害虫警報』が鳴り響く事も無いだろう。しかし、このパズルに更に『敦賀蓮』、そして、『うちの社長』というピースが加わると......。

なんとなく、不穏な絵が浮かび上がる。

いや、最終的に出来上がる絵は決して悪いものでは無いかも知れない。
だが、その過程の方にビービー警報が鳴っているのだ。
終わり良ければ、全てよし!で終わらせられる程、奏江は寛大でもないし、キョーコの事を安く考えているわけでもない。
キョーコが知ったらさぞ滂沱して喜びそうだが、それはそれ。普段は決しておくびにも出さない奏江であった。

「ねえ、雨宮さん」

内面の葛藤など、塵とも感じさせず、にーーっこりと綺麗に笑いかける。

千織には話を振って置きながら、奏江には一言も無い辺り、なんとな〜く社長の思惑が伺い知れるが、そうは問屋が下ろさない! そっちがその気なら、こっちはこっちでやってやる!

「その話、もっと詳しく教えてくれない?」


はてさて、このドラマへの段取りはトントン拍子で進み、とうとう来てしまったドラマのキャスト全員が顔合わせする日。重い足取りで集合場所に足を運んだキョーコは、主演の蓮以外に見知った顔を認めて目を見張る。

「......姫君の身の回りの世話をする侍女役を務める、雨宮千織です」

「同じく侍女にして、敵方の屋敷に忍び込んでいた密偵役の琴南奏江です」

「「微力ながら、全力を尽くします。どうぞよろしくご指導の程を」」

声を揃えて他出演者達に礼をとる(ラブミー部員)二人。
予想外の共演者に、主演の一人は歓喜の声を上げ、もう一人は内心の苦笑を隠して微笑んだ。

(......琴南さんやもう一人のラブミー部員まで出演するだなんて聞いてなかったぞ)

「う、わー。ラブミーコンビならぬ、トリプルだ。何が起こっても可笑しく無い組み合わせだよな」


そんな社の言葉を敢えて聞かなかったことにしたい蓮だった。



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海外ロケには一緒してませんが、実は社長の思惑外で、奏江がちょい役でドラマに捻り込んでました。勿論、緒方監督に直談判し、それらしい理由と共に、実力で勝ち取ったので、社長も否やは言えずじまい。緒方監督自身は社長の思惑など知りませんから、これは、いいドラマが出来るぞーと無邪気に喜んでます。
奏江はキョーコの恋路を邪魔する気はありませんが、彼女が無自覚なら強引に纏めようとも思ってません。ある意味、キョーコ至上主義なの。

拍手掲載日[2009年 11月 27日]

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