虜掌編 〜一夜明けて〜



水面に浮かび上がる水泡の如くゆっくりと浮上した意識。
寝台に零れ降る陽の明るさ。耳に届く小鳥のさえずり...。
いつも通りの何の変哲も無い朝の始まりなのだと......キョーコは思った。


「あ......。身体が...重い......。腰...痛い......」


起き上がろうとして気付く違和感。
全身がギシギシと痛み、とてつもなく怠い。
まるで、一晩中野山を駆け回ったかのような......。
そして、起きたばかりだと言うのに、すっきりとしない思考。
自分の周りさえ朧げにしか見えない。
しかも、身体の腹部......、いや、自分では到底口にしたく無い部位に、未だ何かを銜え込んでいるような鈍い痛み。
それでもなんとか身を起こし......寝台から這い出ようとしたキョーコは、ふと視線を感じて、横を見た。


「ーー!!」


明らかに寝乱れたシーツの上に、片腕に頭を乗せて優雅に四肢を横たわらせているその存在。
陽の光を絡めとったような金糸の髪を無造作に流し、深い深い翠に縁取られた碧い瞳を穏やかに輝かせて、微笑んでいた。


「......おはよう、キョーコ」


艶やかな笑みを浮かべるは、この国の第三王子レン。
いや......、今や『新国王』と言うべきの、キョーコに一番歳近い異母兄(あに)。
力尽くで玉座をその手にした同一人物とは思えぬ程、まるで至福の時を味わっているかの如く、穏やかに、そして愛しそうにキョーコを見付めていた。


ふと視線をずらせば目に入る、鍛え抜かれた肉体美。
程よく筋肉の付いた胸筋に、縦横に割れた腹筋。
大きな傷こそは無いものの、先日の騒乱の証したる、身体中に刻まれた無数の傷跡。だが、それすらも彼の武勇を物語る。
惜しげも無く晒された、日に焼けたその逞しい裸体が、目に眩しかった。


ふと


キョーコは自分自身も一糸纏わぬ姿であることに気付いた。
小さな花びらのような、胸に散らばる薄紅の跡が目に入る。


そして


自分が横たわっていた場所には、薄く朱に滲んだ白いシーツ。  
ーーー紛れもない純潔の……いや、純潔であった証。


「あ......」
「素晴らしい一夜だったよ」
「ーー!!」


瞬間、夢だと信じたかった一連の出来事が、事実であることを突きつけられる。




ーーキョーコ、当時16才。
父王の死と、それに応じて敬愛する『異母兄(あに)』が起こした乱。
まだキスすら知らなかった無垢さのまま、一夜にして『正嫡の王女』から『新国王の愛妾』へと、御年20才の若き国王レンによって無理矢理開花させられた翌朝の事である。


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本編の続きに行き詰まっている間に思い付いた萌えネタ。幼気なキョコ王女に、一晩中鬼畜さを発揮した(らしい)レン王。

拍手掲載日[2010年 2月 22日]

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