舞台裏掌編2〜ロケ地編〜

空高く澄み渡った青空に、ピーヒョロヒョロとさえずりながら小鳥が横切る。

「う、わーーーっ。綺麗な所ですね!」

感嘆の声を上げながら、キョーコは目の前に広がる緑なす木々に囲まれた美しい湖と、その向こう側にそびえ立つ古城に目を見張った。すーーっと澄んだ空気を吸い込み、自然を体感する。

「きっとここにはエリアル(空気の精霊)が一杯いて、せっせとお仕事してるんですね!」

無邪気にはしゃぐキョーコを微笑まし気に見詰めながら、蓮はキョーコに話しかけた。

「くすくす。相変わらず、君は妖精とかが好きだね」

「だって、敦賀さん!スコットランドは勿論、アイルランドやブリテン島ってそういう所じゃないですか!
妖精や精霊達の伝承で一杯で!」

「......それだけじゃないよ」

「敦賀さん?」

不穏な空気を纏った蓮を、訝し気にキョーコが見上げる。

「幽霊や悪霊、猟奇殺人事件も一杯だ。案外、ロケに使われるあの古城にも......」

ククク、と人の悪い笑みを浮かべる蓮に、思わずキョーコは後ずさった。

「敦賀さん!そんな風に脅したって怖くなんかありませんよ!私には、とっても強力なお守りがあるんですから!」

そう言って、ずいっと小さなガマ口を目の前に突きつける。

「これ......、確かコーンという石が入っているお財布じゃなかったっけ?」

「そうですよ!」

「......確か、持ってる人間の悲しみや不安などの陰な気持ちを吸い取る魔法の石だって言ってなかった?」

「そうですよ!だから、きっと悪霊や幽霊だって、悪意があって向かって来たらきっと吸い取ってくれるんです!
なんと言ったって、ここはスコットランド。妖精伝承発祥の地、コーンの故郷なんですから!」

この大気に囲まれて、パワーアップしているはずです!などと相変わらずキョーコのメルヘン思考は健在のようだ。

(故郷ねぇ。俺自身の故郷はアメリカなんだけど)

しかし、キョーコが幼い頃会った『妖精のコーン』が、実は蓮自身なのは秘密なのだからそう言う訳にもいかず。

「それに!悪意ある者に効果あるのは既に実証済みです!」

「へ?」

「以前、軽井沢で敦賀さんが駆け付けて下さる前に、ビーグルにコーンを押し付けたんですよ」

「......君、もしかしてコーンがあの男から自分を護ってくれるとでも思ったの?」

じろりと睨む蓮に、キョーコは竦み上がったが、負けじと言い返す。

「勿論です!実際コーンに触った途端、あの魔界人は顔色変えてコーンをガマ口の中に投げ返して来たんですから!
きっと、込められているコーンの力に当てられたんです!」

その時のビーグルは何やら聞き捨てならないことをのたまっていたが、そんなことキョーコは一切信じていない。要は、ビーグルがコーンに拒否反応を示したことが、大事なのだ。

「......その割には、君、俺が駆け付けた時にはあの男に押し倒されていなかった......?」

「べ、別に押し倒されていた訳では......。ビーグルが無理矢理コーンを奪おうとしたから、揉み合っている内に......」

「......最上さん」

「ひぃっ」

にーっこりと微笑みながら蓮が呼びかけた。
綺麗な擬似紳士スマイルの裏に沸々と沸き上がる蓮の怒りを察知して、キョーコは思わず震え上がる。

「あんまりコーンと自分を過信しないようにね?何かあってからじゃ遅いんだから」

「わ、分かってます!でも、今の私にはプリンセス・ローザだって付いているんですから!」

無敵です!と、どことなくえっへんと得意げなキョーコの様子に、思わず蓮は片手を額に当てて深いため息を吐く。

『コーン』も『プリンセス・ローザ』も、元をただせば蓮がキョーコに贈った物だ。
確かに、キョーコの心の支えになるように祈りを込めて贈った物。
しかし、断じてキョーコの無鉄砲さと言うか、無防備さに拍車をかけるために贈ったのではない!

「......敦賀さん?」

蓮の様子に、おそるおそるキョーコが問いかける。

「......最上さん。間違ってもあの古城は勿論、ここら辺を一人で探検しようなんて思わないようにね?」

「も、勿論、そんな非常識なこと考えてもいませんよ!ちゃんと許可を取ってから、誰かと一緒に......」

「...その時は、ちゃんと俺にも言うように」

「え?でも、そんなわざわざ敦賀さんに......」

「言うようにね?」

再び、にーーっこりと紳士笑顔で凄まれて、キョーコはこくこくと無言で首を縦に振る。

(まったく......。どうせ頼るなら、俺が贈った物にじゃなくて、俺自身にしてくれ)



果たして蓮の心の叫びは、このドラマの撮影中にキョーコに届くのか......?



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自分の贈った物に負けてる?蓮。

拍手掲載日[2009年 9月 29日]

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