英語は難しい

キョーコとクーの一コマ1:英語deだじゃれ

その1


それは、キョーコがクーと出会った初日。二人の間にまだ海溝よりもふっかーーい蟠りがあった頃。


「小娘! It's right to write "to turn right at the next light" right now...と言えるもんなら言ってみろっ」

「イッツ ライト トゥ ライト トゥ ターン ライト アット ザ ネクスト ライト ライト ナウ...だじゃれですか?」

「ほほう。舌を噛まずに言えたのは褒めてやろう、小娘。意味は分かるか?」

「私の名前は小娘じゃないんですが...。『"次の信号で右に曲がる"と今すぐ書くのは間違ってない』」

「クッ。なぜ分かる小娘! 日本人は一般に『R』と『L』の差が聞き取り難いはず!」

「(...だから、小娘じゃないって)特にさっきのは、一つの文章に同じ『right』が3カ所でそれぞれ『正解』『右』『すぐ』の3通りの意味で使われている上に、『right』と綴りは違っても同じ発音の『write』、そして似通った違いの聞き取り難い発音の『light』とが混ざってますからね!」

「ちっ、気が付いてたか......」

「ふふん。馬鹿にしないで下さい! 英会話は小さい頃からしっかり実施で叩き込まれてます!」

「実施で?...京都出身じゃなかったか? 英語圏に留学した事などまだないと聞いているぞ?」

「(...そんなご大層な身分の訳無いでしょ)英会話の塾に通ってた事があるんです」

「それだけで、そこまで耳が良くなるわけあるまい?」

「...別にどうでもいいじゃないですか。(ショータローの家の旅館の手伝いでしょっちゅう海外からのお客様の接待もあったからよ! クッ。今思えば、通わせて貰ってた英会話の塾も女将修行の一環だったのかも...)」

キョーコは、知らずして身につけていた英会話までもが、捨てたくても、捨て切れない、忌まわしい過去に由来すると気付き、無意識に下唇を噛む。

「...ふ〜ん。大したもんだな」

「へ?(空耳? なんかこの人から賛辞が聞こえたような...)」

「そこまで身に付けるには、どんな切っ掛けや理由があったにせよ、それなりに一生懸命頑張って練習しなければならなかっただろう。海外に一度も出た事が無いのに、大したもんだ」

「............」


面と向かって、なんの含みも無く言われた言葉に、キョーコは面映くなると同時に、胸の内がすっきりする。自分の努力が認めてもらえたような気がして。


「...悪い人じゃ......無いのかな?」

キョーコはちょこっとだけそう思い直した。



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英語は難しい

その1 - キョーコとクーの一コマ1:英語deだじゃれ

クーがキョコを英語でやり込めようとするとしたら、やっぱ初日だけかなー、と。
拍手掲載日[2010年 2月 2日]
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