LME笑劇の一日

その日ささいな少女の一言で、業界最大手と言われるLME内に衝撃が走った。

会議を終え、担当フロアに戻ろうとしていたタレント部の椹は、エレベーターの中で外から戻ってきた風情の松島を認めて声をかけた。

「おや?松島主任。珍しく外回りでしたか?」
「ああ、椹主任、全くしょうもないですよ...駆け出しの俳優が、実力も無いくせに現場でトラブル起こしまして...営業部長と一緒に先方に頭を下げて来た所です」

心底うんざりした表情の松島に、椹は思わず同情しながら慰めた。
「...それはお疲れ様......売り出し直後から温厚で、人間関係もそつなくこなしてきた敦賀君の様な俳優ばかりだったら、こんな苦労もしなくていいんだろうにな...タレント部でも同様だよ」
「それこそそっちの京子君並みに、誰にでも礼儀正しくて、反感持たれないタレントばかりだったら、仕事も楽でしょうね」
「全くだな」

目を見交わし笑いあう2人。続いて軽口も飛び出してきた。
「今まで2人とも目立って大きな問題も起こしてないし...」
「スキャンダルとも無縁だからなぁ...」
「いっそのこと何か起こしてみろ、と言いたい位ですよ!」
「いいのか?松島君。そんな事言って」
「椹さんだってそう思った事はありませんか?」
「...実はあったりする...」
「やっぱりそうでしょう!?」

上機嫌の男2人を見上げ、これまで存在をほとんど忘れられていた少女が、うんざりとした口調で会話に割り込んだ。

「......おじさま達、随分呑気な会話をしてらっしゃるのね...」
「...うわっ、マ、マリアちゃん。いつからそこに?」
「先程からエレベーターに乗ってましたけど?...余りにも危機感の無い会話だったので、呆れてしまいましたわ」
「え、何か問題でも...」
「だって蓮様もお姉様も、何か問題を起こしてみろ!だなんて...知らぬが仏とはこの事ですわね」
「あ、あの〜まさかあの2人に何か問題でも...」
「大ありよ!だってあの2人、付き合っているんですもの」

「「...............(なんだってぇぇぇぇぇぇぇ!?)」」

「お姉様が公表するのを嫌がってらっしゃるから、今のところ蓮様も隠してますけどね。何かきっかけがあれば、即発表するつもりでいますわよ?」

「「...............(ちょ、ちょっと待てぇぇぇぇぇ〜〜!!)」」

「その時騒ぎが変に大きくなったり、何か問題が起きたら...間違いなくお二人の責任が問われますわ...」

「「...............」」

「まぁ、私には関係ありませんけど?余裕言っていられるのも今の内かも知れませんわね。それじゃあ失礼します」

(全く社内で能天気な話をしてるんだから!今は全然そんな気配は無いけど、蓮様はきっとお姉様を射止めて下さると思うから、その後の心配の可能性をちょっと早めに指摘して差し上げただけですわよ?松島主任、椹主任、感謝して下さいね)

そして爆弾を投げ落とした張本人は、上機嫌で去って行った。

そして後に残された、とても上機嫌とは言えない2人。あまりの事に再び下降し始めたエレベーターから降りるのも忘れ、顔面蒼白になって立ち尽くした。

「おい、松島君...」
「何でしょう、椹主任...」
「どうする...とんでもない騒ぎになるぞ...」
「俺に聞かないで下さいっっ!!」
「したくは無いが...これは社長の判断を仰ぐしかないな...」
「そうするしか無いですね...」
とりあえず意見の一致を見た2人は、そのまま重い足取りで社長室へと向かった。


「...なんだとぅっっ!?それは本当の話かっっ!」
「え、えぇ。間違いは無いかと思いますが...」
「そうか、蓮の奴何をグズグズしてるのかと思ってたが...する事はしてた様だな。感心感心...」
「...あ、あの〜社長?まさかこの事を以前からご存知で...」
「おう!勿論だとも。ただ俺は蓮が一方的に、最上君の事を好きだった事しか知らなかったがな?」

「「.........(俺達はそれすら初耳でしたよっっ!)」」

「よし。そう言う事なら善は急げだ!早速記者会見の手筈を整えるぞ!」
「...あ、あの社長!?一体何の会見を...」
「何って...交際宣言、及び婚約発表会見をだな...」
事も無げに話すローリィを、さすがに推し止める椹と松島。

「ちょっと待って下さい!何を考えてるんですか? 」
「本人の意向も確かめずに何をする気ですか!?」
それに対してローリィは、普段の態度とは違うしみじみとした口調で2人に言い聞かせた。

「...言いたかないがな...俺が蓮の気持ちを知ってから、何年経ったと思ってるんだ...」
「...いえ...皆目見当がつきませんが...」
「...そんな以前からなんですか...?」
いささか呆然とする2人。そしてそれには構わずローリィは話を続けた。

「どうせ交際を秘密にしてるのは、最上君が公表したくないとか何とか、言ってるんだろう?」
「「......(まあ、確かにそんな話だったが)」」
「ここで暖かく2人を見守って...なんてやってみろ!結婚した時には爺さん婆さんになりかねん!!」

「「.........(すまん、蓮、最上君。本当にそんな気がしてきた)」」

「だからここは一つ、周りから押してやる事が必要だろう!何、記者会見までさせれば、さすがに最上君も隠すのを諦めるだろうからな。これは蓮の為、最上君の為、ひいてはLMEの為だ!!どうだ!?文句はあるまい」

「分かりました。取り敢えず俺達はどうすればいいでしょうか...」
「今11時だな...それじゃあ今日の17時に記者会見だ!今日の2人のスケジュールは16時以降は全てキャンセルしておけ!!あとくれぐれも、2人には事務所に戻るまで詳細は秘密にな?怖じ気づいて逃亡を図るかもしれん...」

「き、今日ですか?」
「しかも今からスケジュールの調整を?ちょっと待って下さい、社長!?」
「待てねぇな...俺はこれから各部所に指示して、準備を進めておく。15時に対策会議を開くから、その時に進行状況と文句を聞くぞ。それじゃあな!」

言うだけ言って足音も高く、秘書達に指示を出しながら立ち去っていくローリィ。
それを呆然と見送りながら、早くも2人は後悔していた。

「......社長に話したのは、やっぱり判断ミスだったか?」
「...取り敢えず急いでスケジュールを空けないと...」
「...君も苦労するな、松島君...」
「...蓮の事で、こんな苦労をするとは...思ってもいませんでしたよ...」
「...お互いにな...」



社長からの緊急、かつ内密な指示を受け、LMEのあらゆる部所が駈けずり回った後、きっかり15時から重厚な会議室で報告会議が開催された。

「さぁ、皆の進行状況を聞かせて貰おうか!?まず広報部...」
ローリィに促され、一人のキャリアウーマンタイプの女性が立ち上がった。

「はい。先程の社長のご指示通り、詳細は不明のまま記者会見の通知を、テレビ、新聞、週刊誌等、あらゆるメディアにFAX送信済みです。内容についてかなりの問い合わせが来ていますが、詳細はまだ漏らさないように徹底させております」
「そうか、ご苦労。やはりできるだけ大きなサプライズにしたいからな!?次、総務部はどうだ?」

年配の男性が立ち上がり、如才なく報告する。
「ここから車で五分のホテルに、15時から200人は収容可能な会見場を確保しました。今部下を向かわせて、会場セッティングをさせています。17時からの会見には十分間に合います。私もこの会議が終わったら直行予定です」

受ける報告に満足しながら、ローリィは次を促した。
「よし、ご苦労。次、衣装部は揃ってるか?」
「お任せ下さい!お二人分の衣装は用意済みです。アクセサリーや小物にいたるまで、派手すぎず、かつ好感の持てる様なコーディネートにしてあります。あの...ただ問題が一つありまして...」
「うん?何だ、言って見ろ」
「通常は婚約会見でしたら、婚約指輪の披露とかすると思いますが...ご本人にも内緒で進める、と言う事で...準備ができないのでは...」

困り顔のまま話した担当者の話を、ローリィは笑い飛ばした。
「まあ、それは仕方がないが、何が何でも世間一般と同じにしなくちゃならんと言う法もあるまい。蓮の事だ、記者の質問とかは上手くあしらうだろうから、気にする事もなかろう」
「それを聞いて安心しました。後はメイク担当者も手配して待機中です。お二人が事務所に戻り次第、準備に取りかかれます!!」

「うむ、完璧だな。次、営業部の首尾はどうだ?」
「はい...2人の出演作品や、契約内容を確認してみましたが、この手の問題が発覚した事で影響が考えられる契約が2・3あります...ですが二人とも今まで問題も無い、どちらも好感度高い組み合わせなので、大した問題にはならないかと...」
「まあ...先方には俺からも頭を下げる事にする。それでも駄目なら契約は破棄しろ。仕事の一つや二つで慶事を台無しにするわけにいかんからな!」
「そう言って頂けると気が楽です!早速会見と前後して事情説明に行って来ます」

「おう、宜しく頼む!次、当人達の今後のスケジュールはどうなってる?」
「...はい...何とか16時以降の蓮のスケジュールは空けました...16時前には事務所に戻るはずです...」
「...最上君も仕事を調整しました...凄い勢いで戻って来るはずです...電話口で『一体どうなってるのか!』と散々責められました...」
「...それは俺も同じです...社長から両名にきちんと説明をしていただけるんでしょうね...」
「もちろん俺がするぞ!会見には俺が同席して、仕切ってやらねばならんからな!!」

((結局あんたはそれが一番やりたかったんですね!?))




  





「これは一体どういう事ですか、社長!?」
LME幹部職員が巨大な円卓を囲む会議室に、足音も荒く蓮が飛び込んで来た。

「おう蓮、戻ったか。お前の婚約発表記者会見の準備は、滞りなく進んでいるから安心しろ!!」
「はあっ!!蓮、お前そんな相手いるのかっ!?」
蓮が開け放したドアを閉めながら入った来た社が、寝耳に水の話を聞いて仰天する。

「ほう?社にまで秘密にしてたとは流石だな、蓮」
顔を引きつらせながら、辛うじて蓮は言葉を絞りだした。
「......つかぬ事をお伺いしますが 誰と誰の婚約記者会見だというんですか」
「もちろん、お前と最上君に決まっとる」

あまりの事に蓮は無言で固まり、社は酸欠状態の金魚のように空しく口を動かすが、声が出ない。
「社長、それはとんでもない誤解で......」
「ああ、分かっとる。そこまで話は進めてないと言いたいんだろう?」
「いえ、それ以前に、前提条件で大きな行き違いが......」
「だがこの際だ。あと一時間近くある。何も今すぐ入籍、結婚式をしろといってるわけではないんだ。口説いて婚約発表位しておけ」
「ですから、俺達は何も......」
「往生際が悪すぎるぞ蓮。ここで決めておかなかったら、お前らはあと五年は結婚できん。死ぬ気で最上君を口説いて、納得させろ!」
「いい加減にして下さい!!」

流石に切れた蓮が向かい側の所長の元に行こうと、ドアの前からテーブルを回って行こうとした。社が慌てて後を追ったが、廊下から騒々しく走り込んでくる音が聞こえたと思うと......、
ガチャッ、バンッ、ゴンッッ
「うあっ!!」
「や、社さんっ!!」

いきなり前触れも無くドアが勢い良く開き、その前から移動しかけていた社の後頭部を直撃した。
思わず悲鳴を上げて蹲る社に、駆け寄ってしゃがみ込む蓮。

「こんの道楽社長ーーーーっ!!今度は一体何をしでかしたんですかーーーーっ!!」
「きゃあっ、理沙子さん。仮にも社長の前なんですから、もう少し冷静にっ!!なにもドアを思いっきり蹴破らなくてもっ!!」

怒鳴り声と共に現れたのは、タレント『京子』のマネージャー佐伯理沙子であり、キョーコは必死で彼女にしがみ付いている状態だった。
理沙子が蹴破ったドアの影になって、蓮と社の姿は彼女達からは隠れた位置になっている。

「離しなさいっ、京子!今度という今度は我慢できないわっ。どうして理由も聞かされずに、折角取った仕事をキャンセルしなくちゃならないのよっ!絶対社長がまた変なこと思いついたのに、巻き込まれたに違いないでしょ!!」
「そっ、そうだとしても、もう少し穏便に話を」

物凄い剣幕に、キョーコだけではなくその場に居合わせたものは大概背筋が凍ったが、その中でもローリィは上機嫌なまま彼女に話しかけた。

「まあ仕事の件についてはすまなかったがな、佐伯君。京子の為だ、ここは抑えてくれ」
そこまで言われて、しぶしぶながら怒りを飲み込んだ理沙子。ただ言われた内容に心当たりの無いキョーコは、思わず首を傾げた。

「社長?まあ分かりました。とりあえずお話は聞きますが どうして今日これからのスケジュールが白紙になったんですか?」
「それはだな、急で申し訳ないが、蓮と最上君の婚約記者会見を開く事になったからだ」

顔を見合わせて固まる2人。直後見事なユニゾンで問いかけた。
「「はぁ?誰と誰のですか?」」
「だから、蓮と最上君だが」

無言で大きくため息をつく2人。
「すみません社長。カメラはどこに隠してあるんですか?」
「え?どういう事だ、最上君」
「だってドッキリカメラなんですよね?全然驚きませんでしたけど」

「「「「「........................」」」」」
((((ちょっとまて!まさか本当に何にも関係が無いって訳じゃなかろうな!!))))
その場の大多数の人間の心中の悲鳴を物ともせず、彼女達の会話は続く......。

「やめなさい、京子。こんな人達まともに相手をする方がバカを見るわ」
「り、理沙子さん〜」
「第一脅かそうにも設定に無理があるもの。何で相手が『敦賀 蓮』なの?リアリティなさすぎ。それよりはあんたに言い寄ろうとして、あたしが踏み潰してやった某タレントとか、某俳優とか、某歌手とかの名前出された方が納得できるわよ」
「......それはそうですよね〜いくらなんでも私と敦賀さんじゃ、今言われた人達よりありえません。敦賀さんは尊敬する先輩ですし」

((((おっ、おい。そこまで容赦無い言い方をしなくてもっっ!!))))
未だドアの陰に蹲った体勢になっている2人に目をやり、室内の人間は再び凍りついた。

「という事で、私達はこんな茶番劇に付き合う程、暇じゃありませんので失礼します。さあ京子、行くわよ!!」
「あの、理沙子さん、行くってどこに」
「もちろん仕事先によ。先方にはキャンセルをキャンセルしてもらうようにお願いするわ。社長の我侭に振り回されたと言って、同情買ってねじ込むのよ!!まかせておきなさい!!」
「さすが理沙子さん、私ずっと付いていきます!」

あっという間に話を終わらせ、足音も高く駆け去っていく理沙子とキョーコ。
そして閉められたドアの陰から、当事者の1人がゆっくりと立ち上がって、会議室内をぐるっと眺め回した。笑顔であったが、それだけに余計に怖い。目が据わっているから、なおさらである。
そして地の底から響いてくる様な声が、会議室に低く響き渡った。

「俺もこんな茶番劇には、付き合いたくないんですけどね、社長?」
「いっ、いや。落ち着け、蓮!!」
「どう落とし前をつけてくれるんですか?」
「しかしだな、俺も他から話を聞いただけでっ」
「へぇ、それでは言いだしたのはだれです」
「椹君と松島君だ」
「そうですか、お2人がですか」

そうして蓮は視線を不幸な主任2人組に向けた。
真正面からまともにその視線を受けて、思わず椅子から立ち上がり、背後の壁に向かってジリジリと後退しながらなんとか宥めようと試みる椹と松島。

「お二人とも 俺に何か恨みでもあるんですか?あるのなら言ってみて下さいよ」
「いっ、いや。そんなのはこれっぽっちもないぞっ!!」
「そ、それに俺達は君たちが付き合ってると言っただけでっ、婚約発表うんぬんは社長が勝手に!!」
「おい、松島君!」
墓穴を掘った同僚に、思わず注意を促す椹。しかし、時既に遅し。蓮は危険な笑みを一層深くして詰め寄った。

「言ったことは認めるんですね。でも社長に話す前に、事実確認位は普通しませんか?主任としての責務かとも思いますが」
「まあ、それはそうだった。俺達が迂闊だったから」

いつのまにか背中を壁に押し付ける格好になり、逃げ場を失った椹と松島。
両者の首の外側の壁に自分の手を伸ばし、逃がさない体勢のまま蓮は話を続けた。
「先程お聞きの通り、俺達は付き合ってもいないし、マネージャーにも虫とすら認識されていませんからねぇ。随分事実と異なることを言いふらしてくれたものですね」
「俺達が悪かったっ。だから勘弁してく......」
「ゆっくりお話を聞きますよ?俺は今日これからオフですしね」

ここに至って、完璧に生命の危機を感じ取った2人。一縷の望みを縋って、周囲の人間に助けを求めた。
「し、社長っ!!社君っ!!」
「もう俺達のほかに、誰もこの会議室にはいませんよ。皆さんやっぱり自分の身が可愛いんですね」
「「..................」」

LMEに衝撃が走った日。
それは普段『温和』で『温厚な紳士』と言われる『敦賀 蓮』が、実は『温和』や『温厚』とは程遠い気性の持ち主であることを、LME幹部職員が身を持って思い知る事になった日でもあった。


それから更に数年後、松島の所で椹が話し込んでいると、看板俳優とタレントが連れ立ってやってきた。

「椹主任、松島主任。今宜しいですか?」
「おう、何だ?蓮、最上君、2人揃って」
めずらしい光景に思わず尋ねると、キョーコは顔を赤く染めながら、蓮は平然とした顔で驚くべき事を告げた。

「あっ、あのう、実はお2人にご報告がありまして」
「俺達、婚約しまして。入籍はまだ先になるかと思いますが、とりあえずご報告をと」

「「..................」」
無言のまま、目の前のカップルを見詰める主任2人組。
もっと驚くかと思っていたキョーコは、不思議に思った。

「あの、主任?どうかしましたか」
「いや、なんでもない。それはめでたいな」
「はい、そうですね」
いかにもとってつけたように乾いた笑いを零しながら、祝福らしき言葉を椹と松島は繰り出した。

「何かものすごく、興味が無いような感じがするんですけど、気のせいですか?」
「気のせいだろう?ところで社長に報告は?」
「たった今、済ませてきたところです」
その台詞を聞いて、松島が手元のパソコンを操作して確認する。

「成る程ね、見てください、椹さん。社長から連絡メールが入ってます」
「おう、どれどれ。本当だな。......最上君、今日15時以降の君のスケジュールは全てキャンセルだ。今日の17時から婚約発表記者会見だからな。もう場所を押さえたから。何、衣装も揃ってるし、指輪があればマネージャーに持ってきてもらうだけでいい」
「蓮、お前も同様だ。それからそこのプリンターから今出てきたのが、記者会見での予想問答集だから、2人で目を通しておいてくれ。直したい時は構わんが、一応事務所でチェックを入れるから15時までに頼む」

「きょ、今日これからですか〜」
「社長はあの通り即断即決の人だからな......」
「はい、分かりました」
苦笑して了承する蓮。社長の行動など予測済みである。

「何か段取りが手慣れてますね。さすが業界大手のLMEです!婚約発表位でおたおたする事なんてないんですね」
感動もあらわにその蓮に話かけるキョーコ。

((いや、君たちに関しては二度目だからな))
いいかけた言葉を何とか飲み込んだ松島と椹。

「それでは失礼します」
「ああ、今日一日大変だがよろしく」

2人を見送り、半ば呆然とする主任2人。
「椹さん」
「何だ、松島君」
「ようやく終わるんですねっ、俺達のこのつらい日々がっっ」
「泣くな、松島君。気持ちは分かるが」
椹にしがみ付き泣き出す松島。しがみ付かれた方も同じ心境である......。

「この状態がいつまで続くのかとっ!蓮はあれ以来『余計な事を言ったらどうなるか分かってるんでしょうね』って、無言で圧力かけてくるし!」
「実際に付き合い出してからは、隠しているつもりなのは最上君だけで周りにはバレバレで......、俺達が随分握り潰した件があったものなあ」
「もう何をぐずぐずしているのかと!!いっそ最上君に直談判して公表してもらおうかと何度も思いましたよっ!」

松島の背中を軽く叩きながら、宥める椹。その時携帯が振動し、それを取り出してメール内容を確認して苦笑した。
「俺も同じ気持ちだよ。ところでな、他の幹部連中も同様らしい。携帯の方にメールがきた。記者会見が終わったら、皆で飲みに行かないかと言ってる」
「行きますよっ!!今日はとことん飲んでやるっ!!」
「じゃあ松島君の分も一緒に、参加連絡をしておくから」


俳優『敦賀 蓮』とタレント『京子』の婚約発表で、LMEに衝撃が走ったと見られた日。
それは同時にLME幹部職員達の心に、平穏と安堵をもたらした日ともなった。



めい 2007/12/08

《あとがき》

衝撃と笑劇を変換ミスしたわけではないのは、分かっていただけたでしょうか?
なんかもう、蓮がすごく可哀想な事になってるし、オリキャラまで出してるし......。賛否両論分かれる作品になったかもしれません。

拍手する


蓮が哀れと思いつつも、笑いでお腹が捩れそうになった私ですが、ちゃんと最後には挽回出来て、良かった、良かったv
こちらは、私が足繁く通わせて頂いている(ええ、もう新着記事が来たと同時に素っ飛んで行くと言っても過言では......)思考の森の旅人 のめい様からの頂き物。
スキビ原作設定での小話や、童話テーマの現実編やパロディ、長編パラレルなど、笑いと共感を呼ぶ作品が盛り沢山!特に「食生活改善作戦」で繰り広げられるキョーコと蓮の食生活を巡る熱い?戦いでは、「食生活」は元より、「和食」に関する奥深さに蓮と共に居住まい正して感心してます。
この度、お正月企画として 1/9~1/16/2008までの期間中、書庫の中身を一部フリーにして下さるという、大変太っ腹なお申し出に便乗し、ギリギリまで思い悩んだ挙げ句、「LME笑劇の一日」を頂きましたv
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