桜の見せた夢



こちらは甘今想最のともにょさんが2009年の牡羊座生まれへと下さったイラストから触発された創作です。






「まったく、毎度毎度鬱陶しい貴族共め!今まで見向きもしなかったくせに春宮になったとたんこれだ!」


明らかに高貴な生まれの公達が、共も連れずに一人で杜の中をずんずんと歩いていた。


「私は妻を娶る気などまだ無い!それ以前に、虚栄心と権力欲に凝り固まった女どもなどまっぴらだ!」


周りに誰もいないのをいい事に言葉荒く文句を言いながら、茂みの中をただ突き進んで行く。


「これもそれも全てはまだまだ若くて壮健だというのに、さっさと譲位した父上のせいだ!せめて兄上に春宮に立てる御子がお生まれになるまで待って下さればいいものを...。いくら一日も早く母上と水入らずで過ごしたいからって......!」


普段は温和で柔和な印象を与える非の打ちどころの無い春宮を演じているのだが、さすがに鬱憤が溜りに溜ったようだ。
自分は嫡流の皇子とは言え、第二子。帝位は春宮の兄が継ぐと決まっていたので、貴族共が持って来る縁談のほとんどが今までは兄に向かっていたのだ。
おかげで自由気ままな親王として過ごしていたというのに、父天皇の突然の譲位宣言。
春宮だった兄が帝位に就くのは問題無しとしても、問題だったのはその結果空席となった春宮の位置。兄と妃との間に既に息子の一人でもいれば全く問題が無かったのだが、息子どころかまだ子供の一人もおらず、成り行き上、先帝の第二子である彼が春宮に繰り上がってしまったのだ。


「......兄上に皇子が産まれるまでの辛抱とは言え、どうにかならんのか。ことあるごとに自分の娘達を押し付けようとして......」


未だ誰の入内も許していないが、有力貴族達程自分の娘を売り込もうと煩い。
こうなったら、一刻も早く兄上に皇子が授かるよう、子宝祈願だ!と勢い込んでその方面に名高い神社に足を運んだわけだが......。

...憂さ晴らしに杜の中を無茶苦茶に突き進んでいたら完璧に迷ってしまった。


ガサッ


急に開けたと同時に目を見張った。
目の前には咲き誇る満開の桜の大樹。

そして、

その真下には、思わず桜の精かと思うような可憐な美少女。

桜の花の付いた枝を持って、周りの景色に溶け込むように佇んでいた。




甘今想最のともにょさんから頂いた2009年お誕生日プレゼント画像。初めからお読みになりたい方は画像をクリック!



「......参拝にいらっしゃった方?」


鈴を転がすような声。
まだ裳着前なのだろう、美しい玉の髪は垂れ髪のまま。


「ここを私以外の方がご存知だったとは思わなかったわ。ここは私の秘密の場所なの」


ふふ、と媚びるでも物怖じするでも無く微笑む少女に思わず見蕩れた。


「......ここにはよく来るのか?」

「この子と語れるのは今だけだから、出来る限り」

少女はそう言いながら、桜を見上げた。
釣られて見上げた桜は今がおそらく見頃だろう、後10日もすれば散ってしまうのではないだろうか。


「では、ここに来ればまた君に会える?」

そう問いかけると同時に一陣の風が吹いた。

「......そうね、ご縁があれば」

風をやり過ごして顔を上げた時、少女の姿はもう無かった。


(今の少女は桜が見せた幻?)


思わずそう思ったが、彼女が立っていた地面にキラリと光るものが見えた。
手に取ってみると、それは見た事も無いような青く光る石。
水晶ともまた違うそれは、光にかざすと別の色に輝く。


(あの子が落としたものだろうか?これを持っていればまた会える?)


また誰かに会いたいと思う事など初めてだった。
そう、それは彼の心の中に初めて芽生えた気持ち。
この後、彼自身を、周りを、すべて巻き込む程の......。


FIN


April 4, 2009 by markura


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な〜んて感じで、普段は貴公子面の我侭皇子に一目惚れされる和風キョコたんを思い付きましたv
甘今想最のともにょさんが2009年の牡羊座生まれへと下さったイラストにプチ妄想を付けたもの
私はともにょさんが参考になさった作品の登場人物は知りませんので、あくまで絵自体の印象から触発した産物です。
相変わらず、萌え心をくすぐられるイラストで……。

日本は桜が満開でしょうか...。
ああ、そろそろ長い冬に終止符を打って欲しい......。
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