嫌いにならないで

「敦賀さんがそんなことを言う人とは思いませんでした!!」
「キョーコ!!」


事の始まりはドラマの共演。

俺のあの台詞がいけなかったのだろう・・・
冷静になれば分かるんだけど・・・でも、あの時だけは・・・

俺にだって言い分はあるんだ


俺の今度のドラマで演じるのは御堂雄介という若手議員だ。
政界の裏ボスである冷酷非道と名高い御堂俊介の息子を演じる。

キョーコが演じるのは桜川美郷という代々政治家の家柄の令嬢だ。
美郷の父親が御堂俊介に陥れられて自殺して以来、桜川家は衰退している。

御堂家と桜川家の禍根を作った美郷の母であり、雄介の義母である御堂美香
美郷の父親が決めた美郷の婚約者である、現職の総理を祖父に持つ、福井武
武の元恋人であり、武に非道に捨てられた過去をもつ雄介の恋人、古川百合

はっきり言ってかなりドロドロの人間関係だ。
最終的には俺とキョーコの演じる役が結ばれるのだが、過程が最悪だ。

はっきり言ってドラマの7割、雄介と美郷はかなり激しい敵対関係だ。
スキャンダルの捏造、言葉での応酬
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・これ位ならまだ良い(良くないけど・・・)

俺が嫌なのはキョーコにラブシーンがあることだ。
俺に傷つけられた美郷が武に癒されるシーンで・・・

冗談じゃない!!

何が悲しくて、俺の恋人が俺以外に抱かれるシーンを見なくてはいけないんだ!?
しかもドラマの要とかいって、このラブシーンが長い上にキョーコから誘うシチュエーション。
何よりも言いたいのはこれだ・・・

俺だって誘われたことないのに!!



だから・・・つい俺は感情的になってこの仕事を止めさせようとしたんだ。
で、あんなことを・・・


この役はまだ最上さんには無理ですよ

言ってしまって、『拙い』と思っても後のまつり、キョーコは目に涙を溜めてキッパリ言った。

「敦賀さんがそんなことを言う人とは思いませんでした!!」

あの言葉は役者という仕事を天職と信じている彼女に失礼だった。
・・・あれは確かに俺が悪い。
つまらない嫉妬で彼女のプライドを傷つけた・・・

あれから1ヶ月・・・俺とキョーコはプチ絶縁状態だ。
必要最低限の口を聞くので完全絶縁ではないからプチ絶縁。

何度か彼女と話をしようとしたが、彼女の雰囲気に何も言えなかった。


そして今日は久しぶりのオフで俺は家にいた。
本当なら彼女と過ごそうと思ってキョーコと同じ日にオフを調節したのだが・・・
拒否されるのが怖くて、まだキョーコに連絡をしていない。

ピンポーン

携帯を片手に悶々と悩んでいる俺の耳にチャイムの音が届いた。
誰だ、と思って玄関に行って除き穴からドアの外を見ると・・・・・・・・・・俯いたままのキョーコがいた。

慌てて俺は玄関の鍵を開けると、ドアを押し開いた。

「どうしたの・・・?」

緊張の余り、喉から搾り出せたのはかなり掠れた声だった。
聞こえなかったのか、キョーコはずっと俯いたままだった。

「キョー・・・」

再び俺が口を開いた瞬間、キョーコが俺の腕を掴むと靴を脱いで家の中に引っ張って行った。

「キョ・・・キョーコ・・・?」

俺は慌てて靴を脱ぐと、腰を曲げた体勢でリビングまで連れて行かれ、そのままソファに座らされた。
頭が?で占領され、理解のできない俺の膝に、彼女が跨ぐ様に顔を正面を向けて座った。
キョーコの着ていたミニワンピースの裾が捲り上げられ、彼女の白い太ももが俺の目に入った。
うわっ・・・と思って俺は息を飲んだが、ずっと黙ったまま俯いているキョーコの方が気になった。

「キョーコ?」
「・・・・・・・ったらヤダ」

俺がキョーコの名を呼ぶと、小さな小さな声が返ってきたが何を言っているのか分からなかった。

「え?」

俺が問うと、キョーコはばっと顔を上げた。

「キョーコ!?」

俺はキョーコの今にも泣きそうな顔に驚いた。

「な・・・・なに・・・・どうした?一体何が・・・」

そう言って俺が目じりの涙をふき取ろうとすると、彼女の目から涙がボロボロこぼれだした。

「敦賀さん・・・嫌いになっちゃやだあ・・・!!

キョーコの泣き声に俺はぎょっとした。

「な・・・何で俺がキョーコを嫌いになるの?」
「だって敦賀さん、この1ヶ月、ずっと現場で怖い顔をしているんだもん・・・」

そう言ってキョーコは俺の目の前でヒッくヒックと泣き出した。
俺はとにかく状況を理解するまで、泣いている彼女を抱きしめていた。
抱いている彼女が静かになったころ、俺は口を開いた。

「・・・俺、そんなに怖い顔をしていた?」
「はい。まるで雄介みたいに・・・」

そう言われて俺は父さんの言葉を思い出した。

『キョーコは一度役に入り込むと、勝手に演技をする・・・役者として怖いタイプだよ』
『お前と同じだな』

「もうこんな思いは耐えられません」

俺が黙っていたとき、彼女はその沈黙をどう理解したのか口を開いた。

「私、もう敦賀さんとは・・・」

そこまで聞いて俺の心臓は凍りついた。

「キョーコ!!ちょっと・・・「二度と敵同士の仕事しません!」」

俺はキョーコの台詞が分からなかった。

「え?」
「たとえ演技でも、敦賀さんにあんな目で見られるのは嫌です」
「・・・キョーコ、でも仕事だよ?」

キョーコの演技に対するひたむきさは俺がよく知っている。
この世界が大好きなことも・・・

「仕事ですけど、これだけは嫌です〜私は演技でも敦賀さんに嫌われたくない〜」

そう言ってキョーコは俺の胸でワンワン泣き出した。

どうしてくれよう、この娘は

俺は嬉しさの余り口が緩んだが、両手は現在使用中なので口元を隠せなかった。


「キョーコ、実はね・・・」

そう言って俺はどうしてあんなことを言ってしまったのか説明した。

「・・・というわけなんだ・・・」
「・・・」

キョーコは俯いたまま何も答えなかった。
怒ったかな・・・、そう思いながら俺は彼女の顔を覗き込もうとした。

「敦賀さん」

そう言って俺の両腕の中で顔を上げた彼女の真剣な目と目があった。
彼女の真剣な顔に気圧される。

「な・・・何かな・・・?」

俺が恐る恐る返事をすると、



「抱いてください♪」

そう言って彼女はニッコリと輝くように笑った。



!!

俺は瞬間に手で顔の下半分を覆った。
?という顔で彼女は俺を見ているけど・・・でも・・・それにしても・・・


か・・・可愛い・・・

何?この可愛い生き物!!

可愛いすぎて、抱くのがもったいない!!

俺は耳まで真っ赤にしながら、心の中で叫んでいた。


FIN by なー(11/27/2007)




ここから先は・・・なので、強制的に終わらせました。

キョーコちゃんから蓮を誘うバージョンです。
私の中のキョーコちゃんは色気で誘うよりも、こっちかなという感じです
蓮は経験値はあっても恋愛偏差値ゼロですからね。
色気で誘う相手には十二分にパパッと対処できるでしょうが、こういうのには弱いかな・・・と。


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こちらは「PassionPink」のNAW様のメールフォームの設置記念作品。メールフォーム設置の相談にのったお礼に、とのことでしたが、私こそ「メルフォか拍手設置して下さ〜い」という要望に快く答えて下さってありがたいのに、お礼だなんて......(でも、しっかり貰う)。これぞ棚からぼた餅vですね。

完結した長編「MARIA」を始め、現在連載中の長編にパラレルなど、しっとりとした独特な雰囲気で読み応えのある作品ばかり。特に切ない環境の中でもしっかりと自分の足で立ち、前進しようというキョーコちゃんの健気な姿に、いつもキリキリする心臓を抑えつつ、ハンカチ握りしめて感嘆しながら更新を追っている私です。(勿論、蓮との仲を邪魔し、キョーコちゃんを傷付ける輩への罵詈雑言も絶えませんが...)
箸休め的に書かれるほのぼのとした小話やクレパラ未来編などももろツボですv
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