事務所が違えばジャンルも違う。
狭い芸能界といえども共演は勿論、局のロビーや廊下なんかで偶然すれ違う事などもなく。
夏の軽井沢以降尚が―――キョーコに会うことは叶わなかった。

Destiny

〔9号続き妄想/Side-S〕

偶然は必然だと俺は思う。

幾つもの思いもかけない事柄を続けさま突きつけられたとしても、そこまでの選択肢を重ねてきたのは他でもない自分自身なのだから。

だから…俺が辿り着くであろう未来も間違いなく己の背負うべき業(カルマ)が付きまとうはずで。
だからこそ…おいそれと中途半端に引き下がる事はすべきではない―――と『今』なら思える。

俺が犯した罪。
お前を深く傷つけた罰。
それが現状であるのなら、打開すべく闇の中手探りで突き進んでゆこう。

可能性を信じて切り開く。
それでこその―――二人の運命。

 * * *

「〜〜〜〜〜〜ふんふ〜ん♪♪♪、僕の罪〜♪君の罰〜♪〜〜〜刻み付けて〜destiny♪♪♪」
「新しい曲?いいじゃない」
「うわっ!!!!!!!」

時と場所を選ばずして降って来る無数の旋律と数多の言霊。
脳裏を駆け巡るその情景、そして溢れる…想い。

最近の―――いや、正確に言えば去年のクリスマスにリリースしたシングルを出す少し前から、一種熱病のような、しかしミュージシャンにとっては喜ばしい事この上ない症状に尚は見舞われていた。

次のアルバムの打ち合わせの為の会議室。
急用ができた美人マネージャーの欠席で、ひとり手持ち無沙汰にギターを爪弾けばいつしかその世界に浸っていた。

「み、ミルキちゃん、驚かさないでくれよ。ノックくらい…」

すぐ来るからと待たせていた麻生春樹が突如目の前に戻って来た事によって、尚は手にしていたギターを放り出さんばかりの驚きを隠せないでいた。

「あら?何度もしたし声もかけたわよ?気付かないほど熱中していたのね」
「―――。あぁ。こんな感覚…久々だ」

握った拳を胸に置きしばし記憶を巡る。
音楽を純粋に好きなだけだった頃。
隣でいつも応援してくれていた幼馴染。
持て囃されいい気になっていつからか省みることも無くなり女を渡り歩く自分。

音を奏で言葉を乗せ想いを込める………そんな大切な事を忘れてゆき。
結果、彼は何よりも大切な存在(ひと)を失った。
それはいくら後悔してもしたりない、いくら歌っても満たされない、届かない。
だからこそ無尽蔵に生まれる今までの不破尚にはなかった音楽たち。

―――皮肉なもんだ

人より見目良いルックスと、無難なメロディーライン、ソツのない歌唱力、奇抜なファッション。
そんなイメージで固まっていた“ビュジアル系ロックシンガー尚”から“実力派ミュージシャン不破”への変貌、賞賛も…。

―――アイツのおかげ、なんだよなぁ

「それでね、尚。今度のアルバムなんだけど」
「あぁ、うん」

しばしの夢遊ののち現実に引き戻された尚が頷いた。

「ジャケットのね、……あぁっ!画像を入れたメディアを忘れてきたわ。ちょっと待ってて」
「おいおいまたかよ〜。ミルキちゃん、頼むぜ」

年上の、しかも自分のプロデュースをしてくれる異性に対しての言葉使い。
それは聞く者によっては不快に感じるかもしれないが、春樹は尚の人柄込みでこの口調と態度は嫌いじゃない。

「ごめんね。あ、そうだ。社用携帯の方に画像残しておいたかも」

そう言い画面を開き彼女が今イチオシするCG作家の作品を見せた。

「何枚か入っているはずだから、それを見てイメージ膨らましていてくれる?」
「はいはい。いってら〜」

パタンとドアが閉まり廊下に響く軽快なヒールの音を聞きながら、尚はボタンを押し進め画像を確認していった。

「なんだよ、三枚しか入っていないじゃないか」

しかしさすが春樹オススメのアーティストだけあって、その三枚だけでも十二分に広がる独特の世界。
自然浮かぶ曲と、そのイメージの源。

ふーっ。
携帯を閉じ軽く溜め息を吐き天井を仰ぐ。
こんなふうにふいに訪れる“間”は彼にとって良くもあり悪くもあった。

―――キョーコ…

声が聞きたいと思った。
テレビで配信される万人への声でなく、自分への。
例えそれが罵りであってもいいとさえ思う。

ふとある考えが過ぎった。
一度閉じたした携帯を開きアドレス帳を探す。

―――ミルキちゃん、ごめん

今までされた事はあっても他人の携帯を無断で覗き見したことなど…したいとさえ思ったことがない尚。心奥底で何度も詫びながらも、それでもそれを求めずにはいられない欲望がボタンを押し続けさせた。これが春樹のプライベート携帯なら彼も躊躇したであろう。

―――か、、、き、、、、、……………あった!

目当ての『京子』の文字に胸が逸る。
少しの良心の呵責を感じつつも赤外線で自分の携帯へデータを送った。

再度戻って来た春樹と気が遠くなるような時間を過ごし、やっと休憩に入った尚は非常口から階段へ出て、僅かに震える手で携帯を取り出し、そしてダイヤルした。

コール音が響き空虚に時が過ぎる。 中々でないキョーコに苛立ちを感じながらも、一昨年新人賞を総なめにした時のような高揚感もあり苦笑する。

10回、11回。
増えるコール数に尚の心臓の音が徐々に早まる。

15回、16回。
繋がれ―――…。祈るような気持ちで願えば―――。

『はい』

受話器越し。
生の声ではないとは言え、自分へ向けられた声に眩暈がした。

『お待たせしました、最上です』

人気トップシンガーである尚も携帯の設定は“非通知”
キョーコが事務所からの電話からと誤解していても仕方がない。

―――よぉ、キョーコ。相変わらず色気もそっけもない返事だな

などのいつもの軽口が。
唇は動くが音は出ない。言葉を吐き出せも飲み下しも出来ず時間だけが、待たされた同じ分ただ過ぎる。
沈黙の中違うのは満たされてゆく想い。

『……あの…?………もしもし…?』

さすがに訝しげに問われ焦るが…。
尚の乾いた心を潤すように浸透する声。

こんな穏やかに話しかけられるのは随分と久し振りだった。
相手が分かればきっと態度が一変するはずの電話越しのキョーコ。
それはそれで嬉しくもある。

―――俺だけに向けられる“その感情”は紛れも無く、お前が俺の存在だけで雁字搦めに縛られている証。それでいい。そのまま脇目も振らず俺を見据えここまでこい。お前は俺の…俺だけのモノなのだから―――

尚がやっと焼け付くように熱く、喉に貼り付いていた言葉を紡ごうとした刹那。

『あ、…あの……敦…賀さん……?』

―――っっ!!!!!!!!!

一瞬で脳髄が沸騰するように尚の目の奥が赤く滲んだ。
相反するように背筋は凍るように一気に冷えた。
そして無意識に切っていた電話。

多分名前を呼んだ本人でさえ気付いてない微妙な変化。
間に吐く息にさえに滲み出ている仄かな想い。

敏感に察知した尚は決意する。

―――このままで終らせるかよ

絶望。
いやそれさえも希望に変える為に。

(おしまい)

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きっと無駄な努力で終ると思いますけどねっ!!(←身も蓋もない)だってどんなに頑張って高く厚く運命の壁を作ろうとも、敦賀氏が既に16巻で「神に背いたってぶち砕く」宣言済みですから(むしろドンと恋!!/笑)
タイトル下の尚語りは彼が曲のイメージを膨らましている情景であり歌詞ではないです(紛らわしくてすみません)暑苦しく語ってしまったので(←HINAが)代わりに「刻み付けて〜destiny♪♪♪」と尚にアホっぽく歌ってもらいました(酷い)本誌9号を読んで妄想オツムのまま書き殴った駄文ですがよしなにお納め下さいませ〜★
Better late than never!すぎる感が否めないのですが…w改めましてお誕生日おめでとうございます&いつも翻訳お世話になってますの感謝を込めてv<2009.04.07 @HINA>



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