Evacuation of Pure Heart
※こちらは
甘今想最のともにょさんの一枚のイラストから触発された創作です。
『かわいがって下さい』
クリスマスイヴと言えど、この日も夜遅くまで仕事だった俺が、自宅のマンションに帰り着いた時に目にしたのはそんなお決まりの文句が書かれた紙が貼付けられた小箱。大きさからして掌に乗る程度のサイズだが、何故かそれが俺のマンションのドアの前に置いてあった。
ここは最高セキュリティの高級マンション、しかも俺のはワンフロアだ。行きずりの者が気安く入り込めるような事は無い。ここまで入り込めるのは、それなりにここか俺に精通している者だけだ。
「やれやれ。また社長のいたずらか?」
俺はそう一人ごちながら、そう大して深く考えずに小箱を手に取るとそのまま部屋に入った。
一旦寝室に入って、無造作に小箱をベッドの上に置き、さっさと着替える。それから、シャワーを浴びたり、リビングで台本読んだりといつも通りに過ごしている内に、例の小箱の事などすっかり忘れていた。やっと思い出したのは、就寝前にベッドの上に乗っていた物体を見た時だ。
「あ...。そう言えば、これ。何が入ってるんだ?」
クリスマスイヴなのだから、クリスマスプレゼントかと思いそうだが、包装も何もされていない、ただの剥き出しの箱だ。
張り付いていたメッセージからして、生き物だったら不味い。
そう思って箱を開けてみたのだが...、まるで巣の中の卵のように、細かく刻んだ柔らかい紙の中央に、ちょこんとショッキングピンク色の大きな卵が入っていた。しかも薄暗い中、僅かに発光している。
「随分大きいな...。ショッキングピンクの卵なんて初めて見たぞ?」
なんかのオーナメントか?
そのあまりの奇抜な色についそう思ったが、手に取ってみると生暖かい。しかも、定期的にトックン、トックン、と鼓動を打っているような音がする。
「な?! 生きている本当の鳥の卵?!」
新種の鳥? と思いながら、頬に付けてなお耳を澄ますと間違いなく暖かいし、脈打っている。
「う〜ん。イースター(復活祭)ならともかく、なんだってこの時期に卵なんだ?」
明日にでも社長を問い詰めよう。
そう勝手に決めると、俺は卵をベッドサイドテーブルに置き、さっさとベッドに入った。
もうとうに深夜過ぎ。日付けだけでいうなら既に25日のクリスマスだ。まあ、夜の間はイヴで通るだろうが...、今更サンタクロースからのプレゼントを心待ちにするような夢見る少年では無いので、俺には特に関係ない。
そう言えば、いたな...。遠い昔、サンタクロースやそんな夢のような事が大好きな、メルヘン思考の小さな少女が...。
俺の事を妖精だと思い込んでいた無邪気な子が...。
いや...、もう10年も経っているんだ。あの子だってもう随分変わってしまっただろう。外面的にも、内面的にも......。
そんなことを思いながら、うとうとと眠りに落ちて行った。
パキン
......?
パキパキパキ......
何の音だ...?
数時間後、眠りに就いていた俺は、妙な物音で目が覚めた。
パキパキパキ......
ひびがが広がるような音はすぐ間近に聞こえる。
俺が身体を起こして音のする方を向くと、あのピンクの卵にひびが入っていた。
暗闇の中、ひびが割れる度にその卵から光が発せられていく。
「...な?!」
驚きで目を見開いている間に、とうとう卵の上半分は完璧に割れ、目が眩みそうな輝きを放って現れたのは......
甘今想最のともにょさん画。初めからお読みになりたい方は画像をクリック!
「My Lord(マイロード)」
「ん?ご主人様?(英語だけど)」
「メリークリスマス!(ニコ)」
「メ、メリークリスマス...」
卵から出現したのは、小さな小さな、俺の携帯ぐらいのサイズの女の子。なんとなく見覚えがある顔のような気がするが......。
しかも、なんだ?その子の背中から生えている...、ふよふよ動いている一対の翼は...。まさか...。
「君...、まさか天使だなんて言わないよね?」
「天使?いえ、まさか!私はそんなご大層な存在じゃありません!」
「ふ〜ん?じゃあ、君はなんなの?」
「えっと...。ピュアキョの一人です」
「ピュアキョ?って、一体何?」
「うんっとですね〜。ピュアキョとは私の本体の大事な部分なんです」
「ええ?! それじゃあ、君、こんなところにいるべきじゃないんじゃないか?! 早く本来の場所へ戻らないと!」
「違うんです!近い未来、その本体の心に多大なダメージが与えられるので...、その前に私だけでも、と本能が私だけ先に避難させてくれたんです」
「......?なんか、それと俺とどう関係あるのか、全く分からないんだけど」
「私もよく分かりません。でも、ここに辿り着いたって事は、きっとあなたが私を私の本体に戻してくれる人なんですよ!だから、それまでよろしくお願いしますね、マイロード!」
「いや、勝手にマイロードなんて呼ばれてもね...」
「大丈夫ですー。そんなに力まなくっても、私の姿は普段は見えませんよー。これからあなたの潜在意識の中で眠らせて貰いますから」
「貰いますからって、君、そんな勝手に...」
「だったら、早く私を目覚めさせて、本体に返して下さいね?」
「だから、さっきから本体、本体っていうけど、それは一体誰の事なんだ?!」
「すぐに分かりますよ...。きっと、すぐにね...」
そう言うと、小さな翼をぱたぱたと羽ばたかせて俺に近付いて来た。
ふわりと微笑むと、ちゅ、と俺の鼻先にキスし...、次の瞬間ぱぁーーーっと全てが光に包まれる。
その光の中、朦朧とする意識の中で一瞬その小さな『ピュアキョ』が少女を象ったが、その姿をはっきり見止める前に、俺の意識は深く深く眠りの底に沈んで行った。
チュン、チュン、チュン......
鳥のさえずりと共に目覚めた朝、ふとベッドサイドテーブルに目をやると、例の卵も、小さな天使も、跡形も無かった。
「夢......か」
奇妙な夢を見たものだと思いつつベッドから立ち上がると、チャリと何かを踏んだ。
拾い上げてみると、それは鮮やかなピンク色の光沢を持つ破片。まるで卵の欠片のような......。
「まさか......な」
一笑に付し、だが捨てる気にもなれなくて、俺はその欠片を拾ってサイドテーブルに置いた。
後で気付いた事だが、いつの間にかその欠片さえ消えていたのだが......。
そして、この時の俺はまだ知らない。
この数ヶ月後、外見をすっかり変えた思い出の少女と、この芸能界で再会する事に。
ちょうど一年後のクリスマスには、特別な誕生日プレゼントを用意する程、その娘に心奪われる事に。
そして、彼女と相思相愛になるためには、俺の中で眠っている彼女のピュアキョ......『恋心』を目覚めさせ、彼女の中に返さなければいけないことに。
FIN
December 23, 2008 by markura
Merry Christmas and Happy New Year!
キョーコの恋心を成長させるのは、あなた次第だ蓮!というお話。
挿入されていた
甘今想最のともにょさんの萌え絵から触発された産物です。
それは、クリスマスも間近の現地時間12月22日の晩のこと。風邪の症状もあることだし、早目に就寝しようと最後にRSSリーダーを流し読みしていたところ、ともにょさん宅の『きょこたん生誕☆みたいな』という記事が目に留まったのが運の尽き。
「あ、じゃあ寝る前に素敵絵でも拝ませてもらおうかな」
と、そんな軽い気持ちでリンクをクリックしたのです......。
拝見した萌え絵にドキュン、と心臓を打ち抜かれ、そのまま脳内で一気に沸き上がる妄想。こうなると吐き出さないと眠れなくなるんですよね〜。結局、書き上げるまで夜更かし(ゴホン、ゴホン、と咳き込むのも気にせず)そのままの勢いでクリスマスプレゼントと称し、ともにょさんに
押し付け献上しました。
一枚の萌え絵の影響たるや恐ろしいものだと身をもって知ったわけです。
当初は題名も付けぬまま献上してしまいましたが、今回改めて書庫アップするにあたり命名 - 『ピュアハート(ピュアキョ)の避難』という意味です。